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こちらの記事では経審の23ある評価項目のうち、X1 完成工事高について解説いたします。
まずは経審の全体像を軽く復習してから具体的にX1 完成工事高の内容に入っていくことにしましょう。
経審は経営事項の審査であり、経営事項は経営規模X(下記①~③)+技術力Z(下記④⑤)+その他社会性等W(下記⑥~⑮)+経営状況Y(⑯~㉓)=総合評定値(P点)で構成されています。
P点=0.25X1(①)+0.15X2(②③)+0.25Z(④⑤)+0.2Y(⑯~㉓)+0.15W(⑥~⑮)
この計算式で経審の点数(評点)であるP点(総合評定値)は計算されます。
取得したい建設業の業種ごとにP点(総合評定値)を算出し、その評点に応じた公共工事に入札参加することができます。
念のため、全23評価項目を以下に挙げておきます。
①完成工事高(経審を受ける業種の売上高) ②自己資本額
③利払前税引前償却前利益の額 ※①~③は経営規模の認定(X)
④技術職員数 ⑤元請完成工事高 ※④~⑤は技術力の評価(Z)
⑥労働福祉の状況 ⑦建設業の営業継続の状況 ⑧防災活動への貢献の状況 ⑨法令順守の状況
⑩建設業の経理の状況 ⑪研究開発の状況 ⑫建設機械の保有状況
⑬国際標準化機構が定めた規格による登録の状況 ⑭若年の技術者及び技能労働者の育成及び確保の状況
⑮知識及び技術又は技能の向上に関する取組の状況 ※⑥~⑮はその他(社会性等)の評価(W)
⑯純支払利息比率 ⑰負債回転期間 ⑱売上高経常利益率 ⑲総資本売上総利益率
⑳自己資本対固定資産比率 ㉑自己資本比率 ㉒営業キャッシュフロー
㉓利益剰余金 ※⑯~㉓は経営状況の分析(Y)
こちらの記事では全23評価項目のうち、トップバッターであるX1 完成工事高についてざっくりと解説していくことにします。
経審では、総合評定値P点を算出しますが、
P点=0.25X1(①)+0.15X2(②③)+0.25Z(④⑤)+0.2Y(⑯~㉓)+0.15W(⑥~⑮)
こちらの計算式で算出するということでした。
X1 完成工事高の前には0.25とあります。
他のX2(②と③)やZ(④と⑤)などの前にも0.15や0.25などの係数がそれぞれにくっついていますよね。
それぞれの係数を合計してみてください。
0.25+0.15+0.25+0.2+0.15 ➡ 計算してみると1になります。
1は100%のことですから、各係数は総合評定値P点に占める割合のことを表しています。
X1 完成工事高の0.25は、総合評定値P点のうち、25%を完成工事高の評点が占めているということを表しています。
23評価項目の内の1つ(X1 完成工事高)のみで、全体の25%を占めるということは、相当重要な評価項目であるということがお分かりいただけるかと思います。
平成時代の前半には全体の35%を完成工事高X1が占めていたので、少し影響度は落ちたかも知れませんが、それでも一番インパクトのある指標であることには変わりありません。
とはいえ、一番影響力のある評価指標だからといって、赤字でも何でもとにかく完成工事高を増やして評点アップを図ろうとすることは良くはありません。
なぜなら、経審の評点の構造が総合的に利益率や過去の利益の積み重ねである自己資本などに比重が高まってきているからです。
つまり、売上重視から利益重視へと変化しているということです。
(平成の前半頃、X2自己資本額及び平均利益額は全体の10%から15%にまで引き上げられました)
経審で良い点数を出していくためには、売上だけではなくきちんと利益の取れる工事の受注を増やしていくこと、適正な利益率の完成工事高を積み上げていくこと、これに尽きるのです。
そのためには、コストや工期の管理、外注先との関係などしっかりマネジメントし適正な利益の確保に努めなければなりません。
経審のためにと述べましたが、もちろん、企業経営としても同じことが言えますよね。
経審が、企業経営についての通信簿のようなものなので、当然と言えば当然のことではありますが。
適正な利益を確保しながら売上アップを試みることが経審のために、ひいては会社経営のためにも大事だということです。
まず、損益計算書(P/L)について軽くお話しをすると、経営者は損益計算書でいうところの費用(コスト)としての材料費・労務費・外注費など完成工事原価や営業諸経費である販管費などにお金を使います(支出します)。
工事原価や諸経費としてお金を使い(投資を行い)、その結果として収益、リターンを得ます。
会社の経営が上手くいっているのかいないのか、結果として儲かったのか(利益)、儲からなかったのか(損失)を、経営の原因と結果の内訳として説明していくのが損益計算書です。
収益-費用=利益 or 損失?
その損益計算書の一番上に最初に出てくるのが売上高、つまり本業から得られた収益(リターン)が示されます。
本業というのは例えば建設業のみ営んでいる会社であれば本業は建設業でしょうし、多角化している会社であれば、建設業と兼業(ここでは不動産業、産廃業、建築設計業など建設業以外の分野)の両方を合わせて本業ということになります。
ちなみに、本業からではないリターンとは、詳しい説明は割愛させていただきますが、損益計算書でいうところの「営業外収益」や「特別利益」のことをいいます。
X1 完成工事高は、損益計算書の売上高のうち(本業収益のうち)、建設業29業種のいずれかに関する売上高(完成工事高)のことを指します。
例えば、内装リフォーム工事専業の会社であれば損益計算書の売上高=X1 完成工事高で表すことになりますし、兼業含めていくつかの業種で多角化経営している会社なら、損益計算書の売上高のうち例えば内装リフォーム工事に関する売上高部分のみが内装仕上工事業のX1完成工事高となります。
話を元に戻しますが、経審は対象建設業者の経営力をあらゆる角度から評価する学校の通信簿のようなもので、その中の評価項目の1つであるX1 完成工事高は経審を受けたい建設業種の経営規模を評価する上で大変重要な指標となります。
経営規模が大きくなればなるほど、その分さまざまな経済事象が起きるでしょうし、それらにそれぞれ対応してきた経験(ノウハウ)を得ることができます。
建設業を営む年商1億円のA社と年商100億円のB社では、雇用している従業員の数は違うでしょうし、請け負う工事の金額も件数も当然に違います。
雇用人数が多いほど、請負金額が大きい工事ほど、抱えている工事の件数が多いほど求められる経営管理能力の水準は上がりますし、経験の量と質も当然に違ってくることでしょう。
公共工事は国民からの大事な税金で成り立っているわけですから、施工業者は施工能力がより高く、経営規模がより大きく、財務状況などがより充実している経験豊富な信頼できる建設業者にできうる限り安心して任せたいものです。
建設業はある意味特殊な業種ですから、工事請負契約の締結と順守、材料仕入れ、技術者の確保と配置、下請業者の選定やマネジメント、工事の品質管理・安全管理、実行予算~工程管理~作業日報管理、原価管理や資金繰りなどなど、完成工事高の規模が大きくなるにつれて特に求められる経営管理能力、責任は当然に大きく複雑になってきます。
直感的にも、例えば1億円規模の公共工事を発注する場合に、年商数千万円の建設業者さんよりも年商30億円の建設業者さんに任せる方が安心できそうですよね。
経審の総合評定値P点は建設業許可29業種ある内のいずれの業種で取得するのか、まずは検討が必要になります。
どの公共団体の何の工種の公共工事に入札参加したいのかによって、求められる経審の業種が決まります。
受注を目指す工事を定めることで、経審など経なければならないプロセスが具体的に決まってくるという流れです。
経審を受けるべき業種が決まったら、その業種の完成工事高を「工事種類別年間平均完成工事高評点算出表」に乗せてX1 完成工事高の評点を算出します。
※この記事では改めて「経審評点算出表」の掲載はしませんが、ご興味のある方は下記リンクに記載がありますので参照してみてください。
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001396970.pdf
経営事項審査の事務取扱いについてP21~22参照(国交省通知)
X1 完成工事高について、一番下は「1,000万円未満」のグループ、一番大きいところで「1,000億円以上」のグループまで42の区分にグループ分けされており、例えば完成工事高1億円なら、1億円以上1億2,000万円未満のグループで計算します。
19×100,000(年間平均完成工事高:単位は千円)÷20,000+616=711
X1が711点なので、
P点=0.25X1(①)+0.15X2(②③)+0.25Z(④⑤)+0.2Y(⑯~㉓)+0.15W(⑥~⑮)
P点に換算するには、0.25X1なので、0.25×711=178(小数点第1位四捨五入)点です。
P点は平均点が制度設計時から700点を目指して作られているので、X1 711点はほぼ平均点くらいの評価となります。
総合評定値P点換算で最低99点(完成工事高0の場合)から最高577点(完成工事高1,000億円以上の場合)までの得点分布になります。
X1 完成工事高は建設会社全体の完成工事高(=工事売上高)のことではなく、経審を受けたい建設業種の完成工事高の評点のことを指します。
経審の評価項目の中でも、完成工事高(X1)と「技術職員数および元請完成工事高(Z)」のみ、申請業種ごとに評点が算出されます。
これら以外の評価項目は会社全体としての評価が点数化されることになります。
「工事種類別年間平均完成工事高評点テーブル」について少し補足させていただきます。
年間平均完成工事高評点とありますが、2年平均と3年平均からどちらか都合の良い方を選択できます。
業種ごとにこれは2年で、あの業種は3年でと選ぶことはできません。
会社として、全業種について一律でいずれか有利な方を選択します。
いくつかの業種で経審を受ける場合は、A業種では2年平均が有利だけど、B業種では3年平均が有利というような状況が出てくるかもしれません。
その場合は、自社にとって優先すべきは何なのかを総合的に判断することになります。
ちなみに、こちらのX1完成工事高の2年平均3年平均の選択は、Z元請完成工事高の2年平均3年平均の選択と紐づいていますので、両者は逆の動きをすることもあるので(逆相関)、このことも考慮しつつ選択しなければなりません。
(X1 完成工事高は2年平均、Z元請完成工事高は3年平均と別の選択はできません。)
あとは、完成工事高の2年3年平均の選択については、W点が下がることもありますね。
公認会計士等数Wは完成工事高の低い方が有利です。
次に、工事種類別ということで建設業の業種ごとにX1完成工事高の評点を算出するということでしたが、一定のルールのもと完成工事高を他の業種から振り替える(積み上げる)ことができます。
(元請完成工事高も同時に振り替えるので、Z元請完成工事高/技術者の評点にも影響してくることに注意が必要です)
専門工事から一式工事への振り替えについて
(振替元)とび、石、タイル、鋼構造物、鉄筋、舗装、しゅんせつ、水道施設
⇩
(振替先)土木一式工事
(振替元)大工、左官、とび、屋根、タイル、鋼構造物、鉄筋、板金、ガラス、塗装、防水、内装、建具、解体
⇩
(振替先)建築一式工事
以下は、関連性が高い専門工事ということで相互に振替することができます。
電気⇔電気通信
管⇔熱絶縁
管⇔水道施設
とび⇔石
とび⇔造園
(東京都の経営事項審査申請説明書より。
※各行政庁により若干異なるので手引き等で具体的な内容の確認をしてください)
完成工事高の業種間振り替えについて、いくつか注意点を挙げておきます。
振替元の業種も、振替先の業種も共に建設業許可が必要です。
完成工事高の振替をするしないは申請者が選択できます。
振り替える場合は、振替元の業種の完成工事高全額を振り替えなければなりません。
(半分だけ振替先に振り替え、残り半分は振替元に残すようなことはできません)
(注)振替元の業種については経審を受けることができなくなります。つまり、公共工事に入札参加できなくなります。
2年平均、3年平均の完成工事高の選択ができますが、この年度については振り替えるけれど前年度分は振り替えないでおこうとか、この年度はこの業種に振り替えるけどあの年度は別の業種に振り替えようというように事業年度ごとに振替先を変えること等はできません。
希望の工事の発注者が経審の完成工事高の振替を認めているかどうかも前もって確認しておくようにしましょう。
以上が、簡単な注意点です。
最後に、「工事種類別年間平均完成工事高評点テーブル」で区分された42のグループについて、小さい会社ほど完成工事高の変動による点数差の影響が大きくなる傾向があり、大きい会社ほど点数差のインパクトは薄まっていくように設計されています。
例えば、完成工事高5,500万円の会社があと1,000万円完成工事高が上がると仮定するとX1評点が16点アップするのに対して、完成工事高5億5,000万円の会社が同じく1,000万円完成工事高が上がっても、2.5点しかアップしません。
完成工事高5億5,000万円の会社が完成工事高5,500万円の会社と同じようにX1で16点評点アップしたいのなら、6,400万円の完成工事高アップが必要になります。
自社の総合評定値P点を検討する際に、X1完成工事高とその他の指標それぞれのP点に与えるインパクトも考慮しつつ対策を練っていきたいですね。
公共工事は民間工事に比べて規模の大きな工事が多くあります。
公共工事を受注し完成工事高を上げることによって経審の総合評定値P点が上がり、それにより今より格付けのランクが上がり、より大きな公共工事を受注することができるケースもあり得ることでしょう。
そうすると、完成工事高がさらに上がりP点も当然に、それに引きずられてさらに上がっていき・・、といったように売上拡大のスパイラルを創り出すことも可能になるかもしれません。
こちらの記事のまとめとして、経審の総合評定値P点に大きなウェイトを占めるX1完成工事高の評点をアップさせたい場合に参考になる内容をいくつか示しておきます。
上にも記しましたが、完成工事高の業種間の振り替え(積み上げ)については是非検討してみてください。
ただし、振替元業種の工事入札参加はこの先も間違いなくやらないのか?
原則、再度経審を受け直すことは無理なので慎重に検討しましょう。
振り替え(積み上げ)後、総合評定値P点は何点上がるのか?
それが格付けに影響を与えるのか?も大事なポイントになりますよね。
こちらの記事では上に東京都の基準を参考に挙げましたが、他県についてはそれぞれの経審の手引きなど参照してご自身で具体的に内容の確認をしてください。
細かいところですが、各行政庁独自の基準がありますのでくれぐれも注意してください。
建設業以外にも兼業有りの事業者さんについては、完成工事高が兼業売上高に含まれていないか確認しましょう。
例えば製造業で機械の製造販売を兼業として営んでいる場合、機械の納品時に取り付けなどの設置工事も行っているなら機械の販売についての売上は完成工事高とみなされる可能性があります。
設置工事の具体的な内容にもよりますが、機械器具設置工事業やとび土工工事業などの完成工事高とみなされるケースもあることでしょう。
迷う場合は管轄の行政庁に確認してみましょう。
次は、会計の収益認識についてですが、こちらの記事はどちらかといえば中小・零細の建設会社さんに向けた記事なので、ほとんどの会社が工事完成基準を採用していると思われます。
工事完成基準とは、簡単にいうと、建築物の完成引き渡し時に売上計上する会計処理です。
令和3年4月から「収益認識に関する会計基準」が上場企業等に適用されていますが、中小企業においても場合によれば工事の進捗(義務の履行)に応じて早期に売上計上できる可能性もあり得ます。
自社が該当する可能性があると思われる場合は顧問の会計事務所に相談してみるのも良いかもしれません。
経審X1完成工事高の解説のついでに、少し閑話休題。
経審を受けたい(公共工事に入札参加したい)工種の完成工事高X1のお話が続いてきましたが、ここではその大元である会社全体の売上について少しだけ脱線して続けさせてください。
会社が目標とする財務指標として、売上高そのものを掲げることは多くの会社がやっています。
目標年商5億円!などですね。
売上高(完成工事高含む)は全ての利益の源です。
短期的に利益を上げることは、売上原価、販管費、金融コストの見直しなどのコストカットで改善することは可能です。
しかし、中長期的に利益を成長させ、企業価値の向上を図っていくためには大元の売上高の成長が必要になってきます。
なかなか、売上高の成長率を目標、公表している企業は少ないですが、中長期間の目標とする売上高の平均成長率を意識する経営もあっても良いのではないかと個人的には思います。
もちろん、右肩上がりの時代は終わり、複雑性の増す先の見えない時代なのでとても困難かもしれませんが、「売上」は企業内外の様々な利害関係者に分かりやすくイメージしやすい財務指標なので、そのメリットはあると思います。
例えば、5年後に売上高2倍を目標とするなら、毎年の売上高成長率を約15%弱に設定すれば良いですし、10年後に売上高2倍という目標を掲げるなら年間売上高成長率は7%強になりますよね。
社内外にイメージ付けしやすい指標だなと思います。
自社が成長してるかどうか測定するのにもとても分かりやすいですよね!?
ただし、「売上」にとらわれ過ぎて不採算工事を手放せないなどは言語道断です。
あくまで一つの目安です。
売上高の成長が自社にとって難しいとするなら、X2平均利益額(EBITDA)や営業利益、x7営業CFの成長にフォーカスするのも良いでしょう。