経営革新等支援機関(関東財務局長及び関東経済産業局長認定)
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経審のP点(総合評定値)は、
0.25X1+0.15X2+0.25Z+0.2Y+0.15Wで算出されますが、このうち、0.2Y 部分が経営状況分析です。
Yの前に0.2が付されていますので、P点(総合評定値)の20%を占めるということですね。
20%くらいの比率なら大したことない、と侮ることなかれです。
Y点の評点範囲は0~1,595点で、P点換算すると0~319点にもなります。
このホームページでは主に年商数千万円~十数億円くらいの中小建設会社様に向けて記事を書いていますが、経審P点(総合評定値)の中でもこれら中小建設会社にとって特に差の付きやすいのが、今回解説するY点なのです。
しかし、ササっと簡単に評点アップというような技術的な内容も多少は含まれているかもしれませんが、そんなに短期で簡単に経営状況(Y点)が改善するほど甘い話しではありません。
基本はじっくりと時間をかけて会社の財務基盤を育てていくという中長期的な取り組みになります。
時間のかかる大変な内容と感じるかもしれませんが、経審の評点アップはもちろん、自社の財務改善、ひいては経営力の強化向上に繋がっていくお話しだと思いますので、積極的に取り組んでいただく価値は十分にあると思われます。
以下に記す内容は、財務的な要素を多く含むお話しになっていますが、社長や経営幹部の方には経審の総合評定値P点や経営状況分析Y点の仕組みの細かい点もそうなのですが、まずはざっくりと概要を掴んでいただき、来期の経審と自社の財務方針、そして3年後5年後のその方向性を定めるための理解の一助としていただければ幸いです。
経審の経営状況分析(Y点)は、会社の財務諸表(貸借対照表や損益計算書など)の様々な数値を組み合わせて会社の財務状況を分析し、その良し悪しを点数化するものになります。
過去の倒産した建設業者の財務状況やその傾向などを徹底分析し、経審の経営状況分析(Y点)の評価の仕組みは作られています。
そもそも経審は公共工事の入札参加のために必要な建設会社評価の仕組みであり、公共工事は国民から預かる大切な税金で賄われていることからも、公共工事を受注する建設会社の選定には国や地方自治体等は慎重にならざるを得ません。
受注業者が工事の途中で倒産などしてしまうと、発注者である公的機関等は国民に対して申し訳が立ちません。
経審は建設会社の通知表のようなものですが、公共工事を受注したい建設会社について様々な角度から評価し点数化することによって、当該建設会社が公共工事に入札参加するのに相応しいかどうかを客観的に判断する材料とされています。
そんな経審の総合評定値P点の20%を占め、そして、公共工事を受注したい建設会社を財務的な視点で評価するのが経営状況分析Y点になります。
経営状況分析Y点は現在10社存在する登録経営状況分析機関に申請しその結果の通知を受け取り、得ることになります。
以下に8つのY点の評価指標を挙げてみます。
x1 純支払利息比率=支払利息-受取利息配当金/売上高×100
x2 負債回転期間=流動負債+固定負債/売上高÷12
x3 総資本売上総利益率=売上総利益/総資本(2期平均)×100
x4 売上高経常利益率=経常利益/売上高×100
x5 自己資本対固定資産比率=自己資本/固定資産×100
x6 自己資本比率=自己資本/総資本×100
x7 営業キャッシュフロー=営業キャッシュフロー/1億 (2期平均)
x8 利益剰余金=利益剰余金/1億
x1とx2は負債抵抗力を表す指標で、負債額や負債に伴うコスト(支払利息)はその企業規模からして耐えうる範囲なのか等を測る指標です。
x3とx4は収益性・効率性を表す指標で、適正な利益をあげることができる事業内容なのか、どれだけ効率よく利益を獲得しているのか等を測る指標になります。
x5とx6は財務健全性を表す指標で、元金返済と利息の支払いが必要な借入金にどのくらい頼らずに経営できているのか等を測る指標です。
x7とx8は絶対的力量を表す指標で、両方ともに計算式の分母は1億なので、分子の数字を1億で割って1億単位で計算する指標になります。なので、中小・零細会社には影響の出にくい指標です。
下記のY点算出の計算式は覚えておく必要は全くありませんが、何となくこういう感じで評点化されているんだという計算式の大まかな仕組みについてご理解いただければと思います。
Y=167.3×A+583 (小数点第1位四捨五入)
経営状況分析Y点を算出するのにまずはAの計算ですね。
A=-0.4650×x1 -0.0508×x2 +0.0264×x3 +0.0277×x4
+0.0011×x5 +0.0089×x6 +0.0818×x7 +0.0172×x8 + 0.1906(小数点第3位四捨五入)
x1~8の前に+か-の符号が付されていますが、前に+が付されているxは数字が大きいほど評価が高くなり、逆に、前に-が付されているxは数字が小さいほど評価が高くなるということです。
x1純支払利息比率とx2負債回転期間のみ、前に-(マイナス)が付されていますが、他の6つの指標の前には+(プラス)が付されています。
x1とx2の前に-(マイナス)が付されていることのイメージとして、借入などの負債や借入した時に発生する利息の支払いなどは金額が小さいほど良い評価になっていくということは感覚的に理解できるのではないでしょうか。
経営状況分析Y点
8つの財務評価指標のY点に対する影響度と得点率について
経営状況分析Y点は8つの財務指標から構成されていますが、配点は一律ではありません。
配点の影響度の大きい財務指標もあれば配点の影響度の小さい財務指標もありますし、各指標の重み付けはまちまちです。
次に注目すべきは得点率で、得点率というのは各指標の評点の幅の中で最低点0%~最高点100%まで、自社が現時点で何%の割合に到達しているのかを表します。
Y点に対する8つの財務評価指標それぞれの影響度と自社の得点率に注目しつつ、自社の評点戦略を練ることが重要です。
Y点は、167.3×A~の式で計算しますし、
Aは、-0.4650×x1 -0.0508×x2 +0.0264×x3 +0.0277×x4・・・・・の式で計算されます。
例えば、x1のY点に対する影響度は、(-0.4650×167.3=)-77.7945になります。
この「-77.7945」という数字がx1指標の数式の傾き、インパクト(影響度)を表す数字になります。
x3のY点に対する影響度は、(0.0264×167.3=)4.41672になります。
この「4.41672」という数字がx3指標の数式の傾き、インパクト(影響度)を表す数字になります。
この傾きを表す数字が+であれ-であれ大きいほどY点に与えるインパクト、影響度が高いということです。
ちなみに、x1はx1~8の中で、この数値が一番大きいので、Y点に最も影響を与える評価指標になります。
次に、Y点の8つの評価指標それぞれに数字の下限値と上限値が定められております。
例えば、先ほども例に挙げたx1とx3でみていきましょう。
x1の上限値は△0.3 下限値は5.1です、Y点に対する傾き-77.7945を掛けると、Y点換算で上限値+23.33835 下限値-396.75195 上限値から下限値までの幅は420.0903となります。
x3の上限値は63.6 下限値は6.5です、Y点に対する傾き4.41672を掛けると、Y点換算で上限値280.90339 下限値28.70868 上限値から下限値までの幅は252.19471となります。
同じようにY点に対するx1~x8の上限値から下限値までの幅を計算し合計すると1801.7812になります。
この1801.7812に対するx1の幅(420.0903)の割合は23.3%ですし、x3の幅(252.19471)の割合は14%になります。
Y点に対するx1~x8それぞれ評点の影響度合を以下に挙げてみます。
x1(23.3%) x2(8.1%) x3(14%) x4(3.5%) x5(4.4%) x6(11.3%)
x7(19%) x8(16.4%)
例えば、x1(23.3%)のようにY点へのインパクトが大きく、自社の得点率が現在低ければ、まずはこの指標から対策を練ることが得策になってきます。なぜなら、改善の余地が大きいからです。
逆に、x4(3.5%)のようにY点へのインパクトが小さく、現在ある程度高めの得点率にあるのであれば、無理してこの財務指標に捉われず他の指標から評点アップを目指すことがベターという判断になるでしょう。
改善の余地があまりないので、努力対効果が小さく、効率的な対応にならないからです。
受注したい公共工事より、経審で何点くらい必要だと決まったのなら、いかに効率良くその評点を造り込んでいくのかが腕の見せ所になります。
続いて、経営状況分析Y点の8つの指標それぞれのもう少し掘り下げた内容について、以下の記事で解説していこうと思います。
x1 純支払利息比率=支払利息-受取利息配当金/売上高×100
数値が小さいほど高評価になります。
金融機関から融資を受け、その借入金に対して利息の支払いをします。
売上高と比べてその純支払利息の少ないことが高い評価になります。
Y点に占める割合は23.3%で、Y点8指標の中で一番影響力の大きい指標です。
自己資本が大きく金融機関からの借入に依存していない方が高い評価になり、バランスの良い資金運用をしているか?低金利で金融機関から融資を受けているか?等、財務運営を上手にやれているかどうかを評価します。
x2 負債回転期間=流動負債+固定負債/売上高÷12
数値が小さいほど高評価になります。
期末における流動負債+固定負債=負債総額が月商の何か月分になるか(負債回転期間)を示し、売上高と比べて負債が少ないことが高評価になります。
負債回転期間が短いほど、負債支払い能力有りと高い評価になります。
Y点に占める割合は8.1%で、負債抵抗力の評価指標x1とx2合わせてY点の31.4%になり大きなウェイトを占めます。
有利子負債を減らしていくことが、経審にとって非常に大きな意味を持つことがご理解いただけるかと思います。
x3 総資本売上総利益率=売上総利益/総資本(2期平均)×100
Y点に占める割合は14%で、数値が大きいほど高評価になります。
会社の資本をどれくらい上手に活用して売上総利益を得ているのかを測る指標になります。
売上総利益は売上高から売上原価を差し引いて求めますが、一般的には粗利(益)と呼ばれたりもします。
業種にもよりけりですが、売上総利益は近年注目されている“付加価値”に似ているという意味でも、注目してみると企業経営においても有意義だと思われます。
中小建設会社の経審にとって、x1に次ぐ重要な評価指標ということができるでしょう。
x4 売上高経常利益率=経常利益/売上高×100
Y点に占める割合は3.5%で、数値が大きいほど高評価になります。
経常利益は臨時的な損益を計上する前の利益で、本業の活動の成果である売上高のうち、どれだけ効率的に経常的な利益を獲得できているのかを測る指標です。
3.5%ということで影響度は大きくはありませんが、自社の得点率の現在地からも改善の余地があるということでしたら、対応の優先度を少し上げても良いかもしれませんね。
いずれにせよ、利益率を高める経営を志向することは重要です。
x5 自己資本対固定資産比率=自己資本/固定資産×100
Y点に占める割合は4.4%で、数値が大きいほど高評価になります。
4.4%ということで評点の影響度は大きくありませんが、健全な財務基盤に整えていくためにも、経営管理上重要な評価指標であるということが言えます。
設備投資はできるだけ、返済義務のある他人資本(負債)ではなく返済義務なしの自己資本で賄う方が財務基盤を安定させるという観点からは重要になります。
x6 自己資本比率=自己資本/総資本×100
Y点に占める割合は11.3%で、数値が大きいほど高評価になります。
経審、総合評定値P点のX2自己資本額および平均利益額とも密接に関連してきますが、総資本の中で、他人資本(借入金など負債)よりも自己資本に重きを置いた財務バランスが評価されるということです。
借入金は元金の返済、利息の支払いが生じるのに対して、自己資本には返済義務はありませんし財務基盤の安定をもたらします。
x7 営業キャッシュフロー=営業キャッシュフロー/1億 (2期平均)
Y点に占める割合は19%で、数値が大きいほど高評価になります。
分母の1億で、分子の営業キャッシュフローを割りますので、中小企業では差が付きにくい評価指標です。
中小企業にとって経審の評点という視点では差が付きにくいのですが、だからといって営業キャッシュフローを軽く扱ってはなりません。
本業で稼いだキャッシュを表す数字になりますので、経営上意識すべき非常に大事な概念であることは間違いありません。
x8 利益剰余金=利益剰余金/1億
Y点に占める割合は16.4%で、数値が大きいほど高評価になります。
分母の1億で、分子の利益剰余金を割りますので、中小企業では差が付きにくい評価指標です。
経審、総合評定値P点のX2自己資本額および平均利益額の解説記事でもお話ししましたが、(繰越)利益剰余金は開業以来の毎期の税引後利益の積み重ねです。
法人税事業税法人住民税を支払った後の利益、税引後当期純利益の毎期の総合計です。
会社の財務基盤を強くするための基本中の基本がこの数字を積み重ねていくことになります。
ここまで、経営状況分析Y点について経審全体における位置付けやY点の各評価指標について概要をお話ししてきました。
相応の公共工事を受注するに値する財務体質の建設業者選定、という趣旨で設定されているY点の8つの財務指標。
この記事の読者は中小建設会社の方がほとんどだと思いますので、中小建設会社にとって経審P点総合評定値の構成要素の中で特に重要なのは今回の記事の経営状況分析Y点と社会性等の評価指標W点です。
Y点の中にはx7とx8のように大企業に有利な絶対的力量を表す指標も含まれていますが、それ以外は財務比率の評価指標であり、大企業であれ中小企業であれ戦う土俵は同じです。W点も○○をしているか否かなど特に大企業有利という評価指標ではありません。
経審P点総合評定値の他の評価指標は、完成工事高や自己資本額など、絶対額でボリューム評価されますので大企業が有利な評価の仕組みになっています。
繰り返しになりますが、中小・零細の建設会社は経営状況分析Y点とその他社会性W点で効率よく評点を稼ぐことが賢い方法になりますね。
公共工事受注のためにこれら評価指標の仕組みを理解していただいて、出来るだけ自社にとって効率的に成果をあげることができるようにすることはもちろん、このホームページでは経審に前向きに取り組む建設会社様にもう一歩踏み込んでいただき、会社の財務内容の改善など上手に経営していくことに経審を活用していただけたらと思い記事を作っております。
経審 経営状況分析Y点は、世間でいうところの財務分析、経営分析の一種です。
自社指標の時系列分析や、競合他社やベンチマーク(目標値)、業界平均数値などと比較分析することで実態をつかみます。
財務分析を会社経営に活かしていく心構えとして、指標の細かい数値にこだわり過ぎずその分析指標が持っている性質から自社の置かれている状況、傾向などを大局的に掴んで将来を予測し経営意思決定に役立てることです。
財務分析は外部の利害関係者(例えば金融機関が融資判断等)が行う場合と、会社内部で経営管理として行う場合がありますが、特に後者の場合は自社の質的側面、定性情報、計数化できない非財務的な要素(例えばヒト・モノ・カネのヒトとモノなど)の実態も十分に捉えて総合的に判断するようにしましょう。
財務分析、経営分析は大きく分けて、収益性分析とキャッシュフロー分析のアプローチが特に重要です。
収益性分析は主に損益計算書(P/L)視点で収益力、会社の儲けが向上しているかどうかを判断しますし、キャッシュフロー分析(安全性分析、健全性分析と呼ばれることもあります)は主に貸借対照表(B/S)視点でキャッシュは淀みなく流れ循環しているかどうかを判断します。
これらは短期的にはトレードオフの関係、つまり、収益力をアップさせることとキャッシュをスムーズに循環させることの両立はなかなか難しい問題です。
しかし、長期的には収益性が高まれば資金繰りも上手くいきだしますし、キャッシュがうまく回りだせば収益性はさらに向上していくという具合に歯車が嚙み合ってくるのです。
長期的とは10年くらいかかることを言うのかどうかは会社の経営環境によりけりでしょうが、収益性をどんどん向上させ、それを追うようにキャッシュの流入が増えぐるぐると資金が循環していくという、こんな理想の姿に自社がなることを目指して頑張っていきたいものですね。
あと、補足ですが、収益、利益よりもキャッシュに注目せよというような流れもありますが、これらは、両方とても大事です。
もちろん、キャッシュがなければ資金不足となり会社は倒産するのでその通りです。
しかし、キャッシュしか見ていないと赤字を出し続けても資金調達できれば何とかなると思ってしまうと危険です。
このような会社経営にも役立つ財務の考え方もご紹介しつつ、次回からは経営状況分析Y点の8つの財務指標それぞれを個別に、もう少し突っ込んだ具体的な内容の記事を書いていく予定ですし、その財務指標に関連するような会社経営にとって有用な類似の財務指標などの紹介と解説もしていきたいと思っています。
公共工事の受注で売上を造っていく、そして、公共工事入札参加のための経審をきっかけにして、倒産しにくい財務基盤の強い会社に仕上げていく、そんなお手伝いができればと思っております。
※こちらの記事は2022年4月の記事になります。経審における評価指標の内容等は随時変更されていきますので、ご自身で最新の内容の確認をするようにお願い致します。また、経営状況分析Y点の8指標もそうですし、経審P点総合評定値のX1 X2 Z W点もそうですが、各評価指標は他の評価指標と互いに影響を与え合うことがありますので、1指標だけでなくP点総合評定値全体でどういう結論になるのか意識しながら各評価指標の対応を検討していきましょう。