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建設業界にいらっしゃる方、その周辺の業界にいらっしゃる方で、何となく経審というワードを耳にしたことがあるという方もいらっしゃることでしょう。
そんな方にも、そもそも経審とは何ぞや?というところを、分かりやすさを心掛けてざっくりと解説させていただきます。
経審とは経営事項審査の略称で、一般的には皆さん、経審(けいしん)と呼んでいます。
国や地方自治体などから公共工事を直接受注したい工事業者さんは、経審を受けることが必要になります。
経審で会社の実力を客観的に点数評価し、その点数に応じた格付け(ランク)が会社に与えられ、格付けに応じた公共工事に応募(入札参加)できるという仕組みになります。
(経審だけで格付けする発注者団体もあれば、発注者団体独自の主観点も加味した経審との総合評価で格付けする発注者もあります)
公共工事の発注者として国交省や文科省などの国や、東京都や埼玉県などの地方公共団体や他には独立行政法人など様々な発注者団体がありますが、皆さんに良く知られている有名どころであれば例えばNTTやJR各社、国立大学法人、阪神高速道路や首都高速道路などなど、そして変わり種も少し挙げさせていただきますと日本たばこ産業(株)や地方競馬全国協会などその発注者は多岐に渡っております。
公共工事を受注するためには経審を受けなければならないことは分かっていただけたと思いますが、公共工事の受注までのプロセスはそれだけではありません。
まずは、経審を受けるためには、対応する業種について建設業許可を持っている必要があります。
その許可業種について経審を受け、個人と法人を問わず許可業者としての評点が付されます。
それをもって希望の地方自治体等に入札参加資格審査申請をし、事業者登録をします。
例えば東京都に事業者登録し、東京都で自社の希望する格付けCランクの建物改修工事の募集があるなら、当社で請け負わせてほしいいと東京都に希望を出すというような流れになります。
その後は、見積もり(積算)の内容などから、工事の受注を競合他社と争い受注の可否が決まります。
経審は、財務的な要素を中心に個人と法人(会社)とを問わず建設業者の実力を点数化し客観的な評価を与えるものです。
評価項目として、大分類では経営規模や経営状況、技術力などが挙げられ、建設業者の企業力を審査します。
これら客観的な経審の評点に、各自治体独自の評価項目からなる主観点を合算して点数化し、700点~850点の建設業者はカテゴリーBいうように格付されることが多いです。
そのカテゴリー、格付けごとに各自治体などが発注する工事の金額が、例えば格付けBは5,000万円~13,000万円などの発注金額と決まっています。
各発注者の経審以外の主観点については、客観点である経審の評点に比べて割合として大幅に小さいことが通常なので、あくまでメインは経審の評点ということになります。
なので、会社が経審についてよく仕組みを理解し上手に対応していけるかどうかで、入札参加後の格付けに結果が大きく違ってくるということになります。
それでは、経審の評点は具体的にどんな項目から構成されているのかみていきましょう。
売上高や自己資本比率など財務的な評価項目と非財務的な項目、例えば技術者の雇用人数や若年者雇用の状況、建設業の営業継続年数などに代表される評価項目とを併せて、会社の実力を客観的な数値で評価します。
個別の評価項目を以下に挙げていきます。
① 完成工事高(経審を受ける業種の売上高) ② 自己資本額
③ 利払前税引前償却前利益の額 ※①~③は経営規模の認定(X)
④ 技術職員数 ⑤ 元請完成工事高 ※④~⑤は技術力の評価(Z)
⑥ 労働福祉の状況 ⑦ 建設業の営業継続の状況 ⑧ 防災活動への貢献の状況
⑨ 法令順守の状況 ⑩ 建設業の経理の状況 ⑪ 研究開発の状況 ⑫建設機械の保有状況
⑬ 国際標準化機構が定めた規格による登録の状況
⑭ 若年の技術者及び技能労働者の育成及び確保の状況
⑮ 知識及び技術又は技能の向上に関する取組の状況 ※⑥~⑮はその他(社会性等)の評価(W)
⑯ 純支払利息比率 ⑰ 負債回転期間 ⑱ 売上高経常利益率 ⑲ 総資本売上総利益率
⑳ 自己資本対固定資産比率 ㉑ 自己資本比率 ㉒ 営業キャッシュフロー
㉓ 利益剰余金 ※⑯~㉓は経営状況の分析(Y)
とりあえず、評価項目を全て並べてみましたが、ざっと23項目あります。
この制度が始まって以来、折々で評価項目自体の見直しもありましたし各評価項目の評点の配分についての見直し等もあり、進行形として現在の姿になっているというところになります。
経審(経営事項審査)=経営規模等評価(①~⑮)+経営状況分析(⑯~㉓)
この①~㉓の評価項目の個別具体的な解説は別の記事で詳しく述べていくことにします。
公共工事は国民から預かった大切な税金を使って行われるわけですから、大事に大事に国民の血税を活用するためにも、慎重に請け負う建設業者の選別をしなければなりません。
過去の建設会社の倒産傾向などから分析し、工事の途中で受注業者の経営が傾いたりしないように出来るだけ強い財務体質の建設業者に公共工事は受け持ってもらわなければなりませんので、そのような視点から財務的な評価項目として上に挙げたような指標が選ばれています。
さらには、出来るだけ費用は安く建設してもらいたいですし、当然安心して長く使える建築物に仕上げてくれる技術力のある建設業者でなければ困ります。
各事業者の経審の内容は公表されていますので、公共工事に経審を義務化しその内容を公開することで一般の閲覧の目にさらされますし、ライバル業者からの虚偽申請などの通報もあり得るでしょうし、仕組みとして駆け込みホットラインなども設置されていますし、公共工事の適正な施工確保のために制度としても不良業者、不適格業者を排除していこうという思考が盛り込まれています。
大事な国民の税金で工事費用が賄われているので、これらは皆、当然のことですよね。
また一方で、経審の非財務的な要素は時の政権の政策等も反映されたりと、その時代に合った評価項目へと適宜改正されたりもします。
例えば、建設業界で働いてくれる若者を増やして業界活性化を図る趣旨で、若者雇用に関する評価項目を設けたり、世界でも有数の災害国家である日本において、いざ災害が起こったときに現地の復旧に協力してくれる建設業者にプラス評価を与えたり等々、経審で様々なインセンティブを与えて時の国の政策に寄与させようとする意図などもあります。
どうせ税金を使うなら、国家のために貢献してくれる社会的責任を果たしてくれる建設業者に使った方が、国民の納得も得やすいというところでしょうか。
経審の評価項目は23ありますが、均等配点ではありません。
それぞれの評価項目に重み付けをし、その重要度によって配点を変えています。
なので、これから戦略的に経審の評点の造り込みを考えている建設会社さんは、まずは評価項目それぞれの自身にとっての重要度を理解することが大切になってきます。
詳細は別の記事で解説しますが、ここでは簡単に一部の評価項目の重要度をみていきましょう。
上にも挙げましたが①~㉓の各評価項目を加重平均などしながら合計した経審の総合点を総合評定値といいますが、総合評定値は、
0.25X1(①)+0.15X2(②③)+0.25Z(④⑤)+0.2Y(⑯~㉓)+0.15W(⑥~⑮)
この数式で算出されます。
さらには、これら評価項目の中でも、現在の売上規模やその建設業者の置かれている状況等によって、短期的に取り組める評点アップの改善策もあれば、中長期的にじっくりと積み上げていかなければならない施策などもあったりします。
そして、例えば経営規模を評価するX1 業種別完成工事高についてですが、こちらは工事施工能力評価のための指標で、例えば1千万円の請負工事を施工するのに必要な能力と10億円の工事を請負う建設業者の能力の評価は当然に違うものになってくることでしょう。
また、この指標の特徴として、売上数千万円~数億円の建設会社にとっては売上のアップダウンは大きく総合評定値に影響を受けやすいのですが、10億円100億円と売上がもっと大きくなるにつれてその影響度は徐々に(逓減的に)小さくなっていくように設計されていたりします。
あらゆる角度から様々な環境下の建設業者を客観的に評価したいがために、素人にとっては相当複雑で練られた評価の仕組みが取られているようですね。
ちなみに、経審の制度設計時には平均点が700点になるように評点テーブルが補正されていたようです。
あとは、実体のない怪しいペーパーカンパニーには得点が付きにくいように設計されています。
ゴールは希望する公共工事を受注することです。
公共工事を受注するためには、受注したい工事の発注者団体の募集する工事案件に応札し、ライバル各社と競い落札しなければなりません。
応札というのは入札参加して工事の請負希望額を投票することをいいますし、工事主催者にとって最も有利な条件で応札し契約を結ぶことを落札といいます。
入札参加するためには、希望する公共団体等に入札参加資格登録の申請をして入札参加資格者名簿に掲載されなければなりません。
そして、入札参加するためには経営事項審査(経審)を受けることが求められているということでした。
(ちなみに、公共工事の元請業者だけではなく、下請業者にも経審を勧める発注者もいるようです。)
公共団体が独自に加点する主観点もありますが、客観的な建設業者への評価である経審の点数があくまでメインになります。
経審の総合評定値と公共団体の主観点の内容を加味して、建設業者が格付けされ、その格付けで定められた範囲内の金額の工事を請負いたいなら手を挙げるという流れです。
希望する公共工事の規模感などが将来的にどのように変わっていくかは、会社としてどのような経営戦略を練り、計画としてどう落とし込んでいくかによっても違ってきます。
例えば、うちの会社はあくまで東京都の格付けCの工事を安定受注することに拘るという方針もあれば、今は3業種で格付けはCだけど、ゆくゆくは業種によってはBに上げたいし、別の業種では最終的にはAも狙っていき拡大路線を走りたいという戦略もあり得ることでしょう。
このように、会社として将来こう成りたいという姿を明確に意識し、その為にはどの業種でどれくらいの規模の公共工事をどの公共団体から年にいくつ受注する、そして民間工事はどうしていく・・・、等々。
さらには、会社としての財務内容はこの時期にはこうあるべきで、それは経審の評価項目とこう関わってくるのだというように連動させて会社経営に組み込んでいければ素晴らしいですし、とても上手な経営だと思います。
最後になりますが、(経審の有効期間について)少しだけ注意事項を。
経審は毎年継続して受けることで、その有効期間を切らさないように注意が必要です。
1年7か月の有効期間ですから、1~2年に1度受けていけばいいのかなと考えがちですが、必ず毎年継続して受けることが必要です。
経審の有効期間は1年7か月なのですが、あくまで起算点(スタート時点)は決算日になります。
1年に7か月がプラスされたのは、決算日のあと定時株主総会があり、税務署に確定申告をし、建設業の許可行政庁に決算変更届(事業年度終了届)を届け出て、経審の申請書類を整えていくなど社内作業に4か月程度と、経営状況分析にかかる期間や経審結果通知書発送の標準処理期間などで3か月程度、申請者側と行政庁側の合計期間を見積もってプラス7か月が1年に加算されているのです。
経審の有効期間が切れてしまうと公共工事の受注ができなくなりますので、期限管理はしっかりと行うようにしましょう。